埼玉県久喜市S邸『土の家と土塀門』

お客様とのご縁

 こちらの施主様は焼杉板塀の作り手を探していたところ、当社HPをご覧になり問合せいただいただきました。
 施主様は古き良きものを大切にされる方で、母屋の建て替えの際、旧家の屋根に葺いていたいぶし銀の古瓦を職人さんに一枚一枚手作業で降ろしてもらい再利用したといいます。そのこだわりは母屋を見れば分かります。初めお会いした時は「なかなか私の好みを分かって作ってくれる人がいないんだよ」と不安そうな表情でした。この価値観は、作り手も同じ価値観でないと共有できません。私は、目の前の施主様の不安な気持ちを笑顔に変えようと決意しました。

お客様のご要望

 ご要望はブロック塀を解体して新しい塀を設けたい。その塀は焼き杉板でというご相談でした。また、離れがトタン張りなので違うものに張り替えたいとおっしゃっていました。当社が伺った時、床の間に通していただきました。その床には古い土塀の写真が飾られており、話を聞くと「こういうのいいよね。」とおっしゃっていて、それを聞き私は土塀門と離れの土壁修復を提案をさせていただきました。

Before After

施工前

施工後

代表の手作りポストを土塀に設置。腰積みはチャート石で穴太積みに挑戦させていただきました。

施工前

施工後

ブロック塀を解体し塀の位置は既存樹のサザンカを焼き板塀の外側になるようセットバックしました。
セットバックしたことで、間口及び道幅が広くなり以前より車の出入りがスムーズになりました。

 土の家

 離れは現在は納屋として使われており、大正時代に大工をされていた御祖父様が作られ、以前はお風呂場として使われていたそうです。トタンを剝がしてみると下塗り仕上げの土壁となっていて、40年程前に土壁が崩れてきたことで仕方なく御祖父様がトタンを張り、雨風から保護したそうです。私は以前、東日本大震災で崩れた蔵の土壁修復などをボランティア経験し、学ばせて頂いたことがあります。そこで、施主様が子供の頃からの思い出詰まった離れを、より永く美しい形で残したいと、もう一度土壁を見せるという修復を提案したところ、施主様の温かい心で挑戦する機会を与えて頂きました。その学びが今ここで実践できますことに、施主様をはじめボランティア経験の場を与えて下さいました関係者の方々にも改めて感謝申し上げます。

施工前

施工中:トタンを剥がした状態

施工後

 

 


左写真は下塗りがない場所に新たに小舞を組んで下塗りの準備をしています。下塗り→中塗り→上塗り
下塗りが剥がれた場所は補修して、中塗り→上塗りで仕上げています。

材料となる土は、敷地内から出た粘土の土を使用しています。
その土地の土を使うことで環境に馴染み、呼吸する生きた壁となります。

最後に

 施工は、既存のブロック塀を解体し離れの土壁修復から始まりました。施工中には作庭志稲田の空間づくりについて施主様と話していくうちに契約当初にはなかった植栽等の追加依頼を頂きました。施工中には施主様の喜びの声を聞き私共も大変励みになる現場でした。『稲田さんに出逢えてよかった。』 との嬉しい言葉を頂き、胸が熱くなりました。私共の方こそ色々なことに挑戦させて頂けた現場であり、S様から依頼頂けて作庭志稲田がまた一つ成長できました。感謝の気持ちで一杯です。この場を借りてお礼申し上げます。本当にありがとうございました。
 今後はこの庭の維持管理に務めさせていただきます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。